マテリアルズインフォマティクスとは?|注目されている3つの理由

最近大企業が積極的に導入しているデジタルトランスフォーメーション(DX)。

・MIとは何か?
・導入することでどのような利点があるか?

具体例を紹介しながら、MIを知らない方にも分かりやすくお教えします。

目次

MIとは何か?

MIの言葉の意味

MIとは「材料開発のDX化」です。

簡単な例を紹介します。
「原料Aに原料Bを混ぜて最も硬い配合を見つける」という開発をするとします。

原料Bを混ぜる量を1%ずつ増やしていき、最も硬くなる配合を探せば見つかるかもしれませんが、この方法ですと、100個のサンプルを作成する必要があり、時間も手間もかかります。

MIを利用した場合、類似実験などからモデルを作成し、硬くなると思われる配合を予測します。
予測された配合で実験 → 結果を踏まえてモデルを改良 → もう一度予測し実験…
と繰り返すことで、少ない実験回数で目的に到達できます。

MIとDXの違い

MIはDXの1つです。
DXという言葉の意味は「デジタル技術による(生活やビジネス)の変革」です。
DXと聞くとこれまで蓄積したデータから売上を予測したり、IoTのような大規模なものを想像しがちですが、それだけではありません。

例えば多くの企業で取り組んでいる、「ペーパーレス化」もDXに当てはまります。
発注書の書類を電子化することで、各取引先の取引額に関するデータが蓄積されます。

蓄積されたデータから、
「取引先はどのような商品を購入しているのか?」
「年間で取引が多い時期はいつか?」
といった情報が読み取れます。

このような情報がわかれば、
「こんな商品を紹介すれば興味を持ってもらえ、取引額の増加につながるかも。」
「この時期は注文の量が多くなるから、事前に商品を用意できる体制を整えておこう。」
と新たなビジネスチャンスにつながるでしょう。

MIはそういったDXの中で材料開発に関するものになります。
似たものに、
・DXを化学に応用した「ケモインフォマティクス」
・DXを製造工程に応用した「プロセスインフォマティク」
などがあります。

MIのメリット

開発のスピードが大幅に速くなる。

実験の回数を減らし、実験を効率的に行うことができます。

材料の特性を評価するには、サンプルを用意し、測定する必要があります。

サンプルの用意に数日かかったり、特別な装置を使用するため測定する機会が貴重な場合、必要最低限の測定で欲しい結果が得られれば嬉しいですよね。

クリエイティブな開発に注力できる。

配合量の最適化業務はMIを活用することでで軽減されます。

空いた時間で新しい原料を探したり、材料の新しい作成技術を検討したりと、クリエイティブな開発に時間を多く使うことができます。

作業量が減り、社員の負担が軽減される。

開発スピードの向上を会社側のメリットとすると、作業量が減るのは社員側のメリットですね。

2019年4月1日より、働き方改革関連法案の一部が施行されました。
また新型コロナウィルスの影響により、これまでの働き方が大きく見直されています。

MIを導入することで、出社しなければできない業務の量を減らことにつながります。
これにより社員の負担を減り、テレワークの実施も可能になるでしょう。

MIのデメリット

データを用意することが必要。

当たり前のように聞こえますが、これがなかなか大変です。大変な理由としてデータの「量」と「質」が挙げられます。
「量」はそのままデータの数のことです。
予測の正確性を向上させるには、多くのデータ数を用意する必要があります。
プロジェクトの内容にもよりますが、目安として10,000、最低でも1,000のデータが必要だと言われています。

「量」は文献やデータベースから抽出し、増やすことが可能です。
その際に抽出したデータがどのような条件で測定されたかは確認するべきです。
測定条件や測定機器の違いにより数値が異なる場合があります。

「質」はデータの信頼性です。
データに再現性(誰が・何度測定しても同じ結果が得られるか)があるかは特に注意すべき点でしょう。

「質」が不十分なデータを用いれば、開発スピードが低下するだけではなく、プロジェクト自体が頓挫する危険性もあります。

プログラミングや統計学に関する知識が必要。

MIによる材料開発にはプログラミングや統計学に関する知識が必要です。

プロジェクトで動く場合、プログラミングは詳しい方に任せることが出来るかもしれません。

しかし、機械学習によって得られる結果がどのようなことを示しているか理解したり、得られる結果が正しいか判断するには統計学に関する知識が必要です。

このような技能・知識を習得するために時間・コストが掛かります。

データ流出への対策が必要。

プログラムの中にはWeb上で動作するものもあります。
また、自社で機械学習に必要なプログラムを作成できない場合、外注することもあるでしょう。

そのような理由からこれまで会社に蓄積されてきた大切なデータが外部に流出する恐れがあります。
これを未然に防ぐため、セキリュティの強化等の対策が必要です。

なぜ今MIが注目されているのか?3つの理由

MI成功例の報告が増えてきた。

MI成功例の報告が増えたことで、成功した場合のイメージがしやすくなり、企業としてもMIに積極的になっていると考えられます。

MI導入によりプロジェクトが成功した企業・研究機関の事例を3つ紹介します。

物質・材料研究機構(NIMS)と愛媛大学の研究チームの事例

物質・材料研究機構(NIMS)と愛媛大学の合同研究チームは、MIを活用し圧力下で発現する新たな超伝導物質の発見に成功しました。

見本のようなMI成功例と言えるでしょう。

マテリアルズ・インフォマティクスによる新超伝導物質の発見【NIMS プレスリリース】

NEC・東北大学材料科学高等研究所(AIMR)の事例

NEC・東北大学材料科学高等研究所(AIMR)の合同チームは、わずか1年で熱電変換効率が100倍向上したデバイスを開発しました。

NECが開発した数種類の機械学習モデルを組み合わせることで、1,000種類以上の材料データを同時に評価することが可能になり、材料開発が大幅にスピードアップしました。

NECと東北大AIMR、AIによる新材料開発に成功【NEC プレスリリース】

住友化学の事例

住友化学は耐熱性ポリマーの開発にMIを導入しました。
その結果、100万通りもある組み合わせ候補の中から目標とする特性を持った候補を、わずか20回程度の実験で発見することに成功しました。

MIで先陣を切る住友化学、材料開発で驚きの効率化【日経XTECH】

プログラミングの敷居が低くなりつつある。

機械学習で近年とても人気のあるPythonは、ライブラリをインストールすることで簡単にコーディングすることが可能です。

またPythonの流行に伴って、多くのPythonに関する参考書や講義が公開されており、中には無料で学べるものも少なくありません。

このような理由から、プログラミングを習得できる環境になりつつあります。

MIやDXを専門に扱う企業が生まれた。

例えばMI-6株式会社はMIを活用した材料開発の研究・開発・コンサルティング・プロジェクトマネジメントを事業内容とする企業です。(MI-6株式会社HP)

このような企業が生まれたことで、MIのノウハウがなくてもMI導入を容易に検討でき、MIを導入する企業が増加していると考えられます。

MIは中小企業こそ導入すべき

*これは筆者個人の考えです。*

現在MIの成功事例は大企業や研究機関のものが多いようです。
新しいことを取り入れると決定すれば、人員・資本が十分にある大きい会社の方が動けるからです。

しかし、私は中小企業こそMIを導入するべきであると考えます。
理由は3つあります。

1. 中小企業にも十分なデータが蓄積されている可能性があること。
2. 個人でも勉強できる環境があること。
3. 経験や勘に頼らない開発が可能になること。

1 についてですが、数十年も開発されている中小企業であれば、多くのデータが蓄積されていると思われます。
中小企業は大企業に比べ、限られた人数で開発しなければなりません。
この眠っているデータを有効活用出来れば増員する必要なく開発力が大幅に向上すると思われます。

2についてですが、MIを活用するにはプログラミングの習得や数学・統計学等の知識が必要です。
これまでは学習環境が整っておらず、勉強のハードルが高いものでしたが、近年SNSの発達で個人でも勉強できる環境が整ってきています。

例えば Udemy というオンライン学習プラットフォームが有名です。
自分の学びたい講義を購入し、勉強できます。
不定期で人気講義のセールが行われたり、購入後30日以内であれば返金対応もあります。

3についてですが、開発者の経験や勘に頼って開発等進めている企業もあると思います。
中小企業ですと開発職の人間が数人ということもあるでしょう。

そのような場合、次の問題点があります。
・経験や勘を持っている人に、会社の開発能力が左右されてしまう。
・似た性能の商品が多くでき、大きく性能の異なる商品が開発されにくい。

MIを導入すれば個人の力に頼らず、会社としてリスクの少ない状態で開発を進めることが可能です。

まとめ  

いかがだったでしょうか?

もちろん使いこなすことができれば非常に魅力的な技術ですが、誰にでも簡単に使いのなせる物ではありません。
多くの企業が導入に積極的な反面、期待した結果出ていない企業も少なくないでしょう。
流行に流されず、「今あるデータでMIが本当に活用できるか」「他の技術でより簡単に解決できないか」など検討が必要です。

それでもMIを用いた開発は近い将来一般的になると思われますので、材料開発に携わる方は身に付けておいた方がいいと考えています。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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